はじめに:なぜ今「順位予想」が話題になるのか
ボディビルの日本選手権が近づくと、SNSやYouTubeなどで毎年のように「順位予想」が飛び交います。
ファンにとってはお祭りのような楽しみがあるかもしれませんが、その一方で、出場する選手側は少し複雑な気持ちになる話題でもあります。
実際、私も毎年いくつかの大会に出場してきましたが、東京選手権や全国大会などが近づくたびにこの”順位予想”が目に入り、その度に感情が動いてしまう場面を幾度となく経験してきました。
今回は、「順位予想をする側」と「される側」の両方の心理を整理し、これから大会を控える選手がメンタルを安定させるための考え方を解説していきたいと思います。
ボディビルファン、そして選手の双方に読んで頂きたい内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
順位予想をする側の心理
応援・期待の表れ
多くの場合、順位予想をする人たちには悪意があるわけではありません。むしろ「好きな選手を応援したい」「今年は誰が勝つのか楽しみだ」という気持ちがその根底にあります。
自分の推し選手を他の人と比べたり、仕上がりを分析したりすること自体がファンとしての楽しみ方の一つなのです。
分析や比較を楽しむエンタメ性
コンディションの写真や過去の大会映像を見比べて、「今年は〇〇選手が仕上がってる」といった予想を立てる。これは一種のスポーツ観戦的な楽しみ方でもあります。
ただし、問題なのはそれが「当人の評価」や「優劣の決定」に変わってしまうこと。本人がまだステージに立ってもいない段階で順位をつけることは、時にその努力を軽視してしまう行為にもなりかねません。
自己顕示欲や“語りたい欲求”
中には、「自分は見る目がある」「審美眼がある」と思われたい人もいます。SNS時代の特徴として、誰もが“発信者”になれるからです。
だからこそ、順位予想は「他人を評価することで、自分を目立たせたい」という承認欲求の表れでもあるのではないでしょうか。
順位予想をされる側(選手)の心理
期待される喜びとプレッシャー
順位予想の中で自分の名前が挙がるのは正直うれしいものです。それだけ注目され、期待されているということの証だからです。
しかし同時に、「その声に答えなければ」というプレッシャーも生まれます。名前が当たり前のように挙がる選手ほど、その重圧は大きいものです。
下に見られる悔しさと闘志
逆に、自分が目指している順位よりも下に予想されたり、「〇〇選手より下」と言われたり、あるいは自分の名前すら上がらなかった場合は悔しさがこみ上げてくることもあるでしょう。
特に、本気で優勝を目指して取り組んできた選手であればあるほど、その気持ちは強いと思います。私も例外ではありませんでした。
正直なところ、若い頃は私自身も他人の順位を勝手に予想したこともありました。しかし、いざ自分が優勝を目指して挑む立場になると、勝手に順位をつけられることに強い違和感と怒りを覚えたたのです。
「まだ勝負も始まっていないのに、勝手なことを言うな」と。
ただ、その“ムカつき”こそが強い原動力になります。勝手に順位をつけられるなら、「本番で覆してやる」という闘志に変えることでエネルギーに変換できます。
他人の評価に引きずられる危険性
順位予想に一喜一憂してしまうと、メンタルが他人軸になります。
「誰が自分をどう評価したか」ではなく、「昨日の自分を超えられたか」を基準にすることが大切です。
順位予想とどう向き合うか:選手へのアドバイス
見ない勇気を持つ
大会直前はメンタルが敏感になります。SNSで順位予想を見て気分が乱れるぐらいなら、思い切って情報を遮断しても構いません。
「見ない」という選択も、コンディションを整えるための立派な戦略です。
実際、私も今年は東京選手権や日本クラス別、ジャパンオープンなどの前は、順位予想の動画を遠ざけるようにしていました。
予想を“燃料”に変える
もし自分の名前が低く評価されていたら、「本番で覆してやる」と燃えるきっかけにしてしまうことです。予想は予想。ステージ上で“事実”を見せつけてやればいいのです。
順位ではなく成長を評価軸に
去年よりも良い仕上がりを見せること。堂々とステージに立てること。表情やポージングの自信が増していること。
そうした「自分の進化」に焦点を当てれば、他人の予想は自然と気にならなくなります。
👇”ボディビルとの向き合い方”については以下の記事でも詳しく解説していますのでこちらもどうぞ。
本当に耳を傾けるべき声に集中する
一番大切なのは、”普段から自分を応援してくれている人たちの声“に集中することです。
ジム仲間、家族、友人――彼らは結果だけでなく、大会に出るまでの”過程“を見てくれています。あなたがどんな性格で、どんな環境で、どれほどの思いを込めて大会に臨んでいるかを理解している人たちです。
一方、順位予想をする人たちは、選手の内面や過程をほとんど知りません。見ているのは表面的な肉体や順位だけで、多くはエンタメ的な関心や“語りたい欲求”によって発信しているにすぎません。
そんな浅い意見に一喜一憂する必要はないのです。そこには何の”深み”も”説得力”もないからです。
それよりも、自分を”本気“で見てくれている人たち――あなたの努力の過程を見てきた人たちの期待に応えること。その人たちの応援に背中を押されながらステージに立てば、順位予想なんてただの雑音に過ぎません。
まとめ:順位予想は外野の声。本番で全てを覆せ。
注目されるような大会であればあるほど順位予想は発生するものです。誰かが語り、誰かが注目し、盛り上がるのが大会前の恒例ですから。しかし、それに意味を持たせるかどうかは自分次第です。
こうした“順位予想”は昔から存在していましたが、それはファン自身の中だけ、あるいはごく限られたコミュニティの中だけで完結していたものだったと思います。
ところが現代では、SNSの発展によって、誰もが自由に意見を世界へ発信できるようになりました。結果として、その内容が選手本人の目にも届いてしまい、時にはメンタルに影響を与えることもあります。だからこそ、順位予想をする側、選手側それぞれに”対策“が必要だと感じています。
順位予想をする側・・・発信の影響力を自覚し、その大会に出場する選手の目に触れる可能性もあることを意識して、配慮を忘れないこと。
選手側・・・順位予想を力に変える、または自分を守るためにも必要であれば情報を遮断し、自分にとって大切な声だけを聞くという選択をする。
誰かの発信に心を揺さぶられるのではなく、自分を支えてくれる人たちの声を信じてステージに立てる選手こそが、本当の意味で「強い選手」ではないでしょうか。
そして最後に笑うのは、”予想を語った人“ではなく、ステージに”挑戦した人“であるべきだと私は思います。
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