こんにちは、腹筋がカニの裏の人(プロフィールはこちら)です。
トレーニング種目を選択する際、前回の記事(効果的なトレーニングメニューの組み合わせ方を考えよう)のように”コンパウンド or アイソレーション”、”両手 or ワンハンド”あるいは”POF”といった概念を取り入れている方は一定数いるかもしれません。
ただ、それらとは別に「運動連鎖(キネティックチェーン)」という概念まで取り入れてトレーニングをしている人は、筋トレ上級者でも少ないのではないでしょうか。
そこで今回は新たに「運動連鎖」とは何か、そして、そこから派生した概念である「OKC(オープン・キネティック・チェーン)」と「CKC(クローズド・キネティック・チェーン)」について解説してみたいと思います。
この運動連鎖は、上級者はもちろん、初中級者にとっても大事な概念ですので、少し専門的な内容も含みますが、できるだけ分かりやすく噛み砕いて説明していきたいと思います。
運動連鎖(キネティックチェーン)とは?
運動連鎖とは、簡単に言うと「体の各関節や筋肉が連動して1つの動作を作り出す仕組み」のことです。
例えばスクワットの動作を考えてみましょう。スクワットは単なる股関節や膝の曲げ伸ばしだけで行われるわけではありません。その動作の中では、足首・膝・股関節・体幹が連動して動いています。
この連動がスムーズであるほど、正しいフォームで力を発揮でき、怪我のリスクを減らすことができます。しかし、逆にこの連鎖がどこかで乱れてしまうと、特定の関節や筋肉だけに負担が集中し、ケガに繋がってしまったり、フォームが崩れて狙った部位に刺激が入らない、といったエラーが発生してしまいます。
運動連鎖の具体例
運動連鎖の具体例としては以下のようなものが挙げられます。
- 歩行動作:足首 → 膝 → 股関節の順番で動き、体が前に進む
- 投球動作:足で地面を蹴る → 骨盤が回転 → 背骨 → 肩 → 肘 → 手首 → 指先 に動作が伝わり、ボールを投げる
このように、各関節や筋肉は一見バラバラに動いているようでいて、実は「ひとつのチェーン(鎖)」として繋がっています。これが運動連鎖(キネティックチェーン)の本質です。
運動連鎖を構成する3つの主要要素
運動連鎖(キネティックチェーン)は次の3つの要素が合わさってできています。
① 力の伝わり方の要素(力学的な要因)
体を動かすときは、必ずどこかに“力”がかかります。そして、そのときの角度や姿勢で、力の伝わり方は以下のように変わってきます。
- 姿勢が少し変わるだけで、効き方が変わる
- 持つ位置が変わると、重さの感じ方も変わる
- 踏ん張る力(地面を押す力)がうまく使えると安定する
例えば、スクワットで足幅を変えたり、上半身を少し前に倒すだけで「どこに効くか」が変わるのは、こうした“力の伝わり方”が違うからです。
② 体のつくり(骨や筋肉の仕組み)の要素(機能解剖学的な要因)
どの筋肉がどの関節をまたいでいるか、どの方向に動かせるか――こうした「体のつくり」も運動連鎖に大きく関わります。
- 筋肉がまたぐ関節が多いほど、動きに関わりやすい
- 柔軟性が低いと、動きが制限されて運動連鎖が崩れやすい
- 利きやすい部位と利きにくい部位の差が、フォームにも影響する
たとえば、股関節が硬い人はスクワットで膝が先に動きやすくなることで膝関節に負荷が集中し、膝を痛めたり、膝周りの筋肉ばかりが発達しやすくなってしまいます。これも「体のつくり」が運動連鎖に影響している例です。
③ 神経の使われ方の要素(神経生理学的な要因)
体は、脳から筋肉への“指令”によって動きます。どの筋肉に力を入れやすいか、どんな姿勢が安定しやすいかは人によって異なります。
- 力を入れやすい筋肉(神経が入りやすい部位)がある
- 逆に、意識しても使いにくい筋肉もある
- 姿勢の癖によって使われる筋肉が変わる
同じフォームで動作をしても「お尻に効きやすい人」や「前腿(太ももの前面)に効きやすい人」がいるのは、神経の入りやすさが違うからです。これも運動連鎖を決める大きな要素となります。
OKCとCKC
この運動連鎖は、OKC(オープン・キネティック・チェーン:開放運動連鎖)とCKC(クローズド・キネティック・チェーン:閉鎖運動連鎖)の2種類に分けることができます。
以下に、それぞれの特徴を解説します。
OKC(オープン・キネティック・チェーン:開放運動連鎖)とは?
OKCとは「末端(手や足)が自由に動く状態で行うトレーニング」のことです。動きが一部の関節に限定されやすいため、ターゲットの筋肉に集中的に刺激を入れやすいのが特徴です。

OKCの特徴
- 主に単関節の動作が中心になる
- 狙った筋肉に負荷を集中させやすい
- フォームが安定しやすく、動作の再現性が高い
- 負荷の調整が細かくでき、怪我などからのリハビリでも行いやすい
代表的なOKC種目
- ベンチプレス
- ラットプルダウン
- レッグプレス
- レッグエクステンション
OKCの強み
OKCは運動連鎖の中から「ここだけを強化したい」という部分をピンポイントで狙えることが大きな強みです。
- 弱点部位の補強に最適(外側広筋・大胸筋上部・三角筋中部など)
- 刺激の“入り方”や“意識の仕方”を学ぶ練習として優秀
- 左右差の修正や、形・カットの調整に使いやすい
特にボディビル的な観点では、OKCは「仕上げの質を左右する種目」として重要な役割を持ちます。
CKC(クローズド・キネティック・チェーン:閉鎖運動連鎖)とは?
CKCとは「末端が地面や器具に固定された状態で行うトレーニング」のことです。複数の関節が連動し、全身で力を受け止めて発揮するため、高重量を扱いやすく、筋量アップや全身の機能向上に向いています。

CKCの特徴
- 多関節のコンパウンド種目が中心になる
- 運動連鎖がフルに働きやすく、全身で力を発揮する
- 高重量を扱いやすく、筋量・筋力アップに強い
- 体幹やバランス能力も同時に鍛えられる
代表的なCKC種目
- プッシュアップ(腕立て伏せ)
- スクワット
- デッドリフト
- チンニング(懸垂)
- ディップス
CKCの強み
CKCは「運動連鎖をすべて使うダイナミックな動き」が特徴です。そのため、大筋群を効率よく鍛えたり、スポーツや日常動作に直結する「動ける体」を作ったりするのに向いています。
- 全体のボリュームアップ(厚み作り)の土台になる
- 代謝や消費カロリーが大きく、ダイエットにも有利
- 体幹の安定性やバランス能力も一緒に鍛えられる
OKCとCKCの違い
OKCとCKCは「どちらが優れているか」という話ではなく、それぞれに得意分野があります。ここでは、両者をさまざまな視点から比較して、目的に合わせた使い分けができるように整理していきましょう。
① 動作の構造の違い(どのように動くか)
おさらいになりますが、OKCとCKCはそれぞれ以下のような特徴があります。
- OKC:末端が自由に動き、主に単関節で動作が完結する。動作範囲が一定で、ターゲットの筋肉が主役になりやすい。
- CKC:末端が固定され、体全体が連動して動く。複数の関節が協調して働くため、全身で力を発揮する構造になる。
同じ「大腿四頭筋」を鍛えていても、OKC(レッグエクステンション)とCKC(スクワット)では、体の使い方そのものがまったく違います。

例えばレッグエクステンションでは、椅子に座って膝を伸ばすだけの動きなので、主に動いているのは「膝関節」と「大腿四頭筋」です。上半身はほとんど動かず、体全体のバランスを取る必要もありません。いわば“膝だけを使う動き”になっています。
一方でスクワットは、足首・膝・股関節が同時に使われる動きとなり、体幹も姿勢を保つために働きます。バランスを取りながら体全体で重さを支え、下半身の多くの筋肉が協力して動くため、レッグエクステンションとは比べものにならないほど多くの筋肉と関節が関わることになります。
このように、OKCは「一つの関節が主役になる動き」、CKCは「複数の関節が連動する動き」になるため、体の使われ方も、感じる負荷も、大切にするべきフォームのポイントも大きく変わってきます。
② 負荷のかかる向きと集中度の違い
- OKC:狙った筋肉に負荷が集中しやすい。負荷の方向が一定で、細かいコントロールがしやすい。
- CKC:力が複数の筋肉へ分散する。末端が固定されているぶん「地面を押す力」が全身へ広く伝わりやすい。
つまり、OKCは「集中的に効かせられること」、CKCは「全身で大きな力を使えること」が、それぞれのメリットになります。
③ フォームの安定性と再現性
- OKC:体幹の影響を受けづらく、フォームが安定しやすい。毎回ほぼ同じ軌道で動かしやすく、刺激の再現性が高い。
- CKC:体幹の安定性が要求されるため、フォームが乱れやすい。姿勢・足幅・重心のわずかな違いが、効き方に大きく影響する。
そのため、「効かせる練習」や「弱点の修正」はOKCが向いていますが、「全体のパワーアップ」を目的とした場合はCKCが向いているといえます。
④ 筋肥大・ボディメイクへの貢献の違い
- OKC:弱点部位の肥大、形の改善、左右差の修正に強い。
- CKC:大きな筋群の肥大、全体のボリュームアップ、基礎的な筋力アップに強い。
ボディメイクを高いレベルで行うには、OKCとCKCをうまく組み合わせることが重要です。どちらかに偏ると、筋量はあるのに形が甘かったり、逆に形は良いのに全体の迫力が足りなかったりという伸び悩みが発生します。
⑤ 関節への負担や怪我リスクの違い
- OKC:高重量を扱う必要がなく、関節への負担は比較的少ない。ただし、単純な動作ゆえに反動や勢いに頼ると、一部の関節や筋肉に大きなストレスがかかることもある。
- CKC:体重+外部負荷が同時にかかるため、扱う負荷が大きい。フォームが乱れると膝・腰・肩などに痛みが出やすく、正しい運動連鎖が求められる。
怪我を避けるためには、CKCではフォームの精度が最重要です。OKCは負荷調整がしやすいため、怪我明けのリハビリや復帰段階で使いやすいというメリットがあります。
トレーニングの目的に合わせてOKCとCKCを使い分けよう
これらの違いを踏まえ、トレーニングの目的に合わせてCKCとOKCを使い分けることが大切です。
| 目的 | OKC(オープン・キネティック・チェーン) | CKC(クローズド・キネティック・チェーン) |
|---|---|---|
| 筋量アップ(全身) | 評価:△ 全身の筋量アップには向きにくいが、弱点部位の補強には役立つ。 | 評価:◎ 複数関節を使うため高重量を扱いやすく、全身の筋量アップに最も効果的。 |
| 弱点補強 | 評価:◎ 狙った部位をピンポイントで鍛えられるため、弱点克服に最適。 | 評価:△ 分散して効きやすく、特定部位を狙うのには向かない。 |
| 形・仕上がりの調整 | 評価:◎ 部位をアイソレート(単独動作)して鍛えられるため、形作りに有効。 | 評価:△ 形の調整よりも基礎作りが得意。 |
| 初心者の基礎作り | 評価:○ 正しい筋肉の使い方を学びやすいが、全身の連動は身につきにくい。 | 評価:◎ 基本的な動作パターン(スクワット・プレス・ヒンジ)の習得に向いている。 |
| 女性のボディメイク | 評価:◎ 気になる部位(ヒップ・二の腕・内ももなど)を狙い撃ちしやすい。 | 評価:◎ 代謝が上がり、ヒップアップ・くびれ作りなど全体の引き締めに強い。 |
| ダイエット | 評価:○ 部分的に刺激できるが、消費カロリーは小さめ。 | 評価:◎ 消費カロリーが大きく、全身を使うため脂肪燃焼に強い。 |
| 怪我明け・リハビリ | 評価:◎ 負荷と可動域を細かく調整できるため安全に再開しやすい。 | 評価:△ 複数関節が連動するため負荷が読みにくく、リハビリには向かない。 |
逆にOKCだけ/CKCだけのトレーニングを続けていると、以下のようなデメリットが発生します。
- OKCだけの場合: 基礎筋力が伸びにくく、全体のボリュームや迫力が頭打ちになりやすい。
- CKCだけの場合: 弱点部位の修正ができず、形の甘さや左右差が残りやすい。意識しづらい筋肉が永遠に弱点のままになることも多い。
そのため、OKCとCKCそれぞれの役割を理解し、自分の目的に合わせてバランスをとることがトレーニングの質を高めることに繋がります。
筆者の実践例:OKCとCKCの使い分け
最後に、実際に私が行っているOKCとCKCの使い分けを紹介します。種目の分類だけでなく、「その種目を選ぶ理由」や「どんな狙いで行っているか」も含めて解説します。
脚トレ
- スクワット(CKC)
下半身全体を使う代表的なCKC種目。脚のボリュームを作るための基礎であり、特に大腿四頭筋・ハムストリングス・大臀筋を同時に鍛えられます。私の脚トレの中心となるメイン種目です。 - ハックスクワット(CKC)
スクワットよりも軌道が安定し、四頭筋に刺激を入れやすいCKC種目です。フォームが安定する分、扱う重量を伸ばしやすく、脚の厚みやカットを作るために重宝しています。 - レッグプレス(OKC)
足の位置や角度を調整しやすく、狙った部位に効かせやすい種目。私は主に「大腿四頭筋への高重量の追い込み」に行っています。 - レッグエクステンション(OKC)
四頭筋をピンポイントで狙うOKC種目。最後の仕上げとして使うことで、大腿四頭筋全体のパンプ感や疲労感を得たり、弱点である外側広筋の張りだしを鍛えるために行っています。
胸トレ
- ベンチプレス(OKC)
OKCですが、高重量を扱えるうえに胸・肩・三頭をまとめて鍛えることができ、胸全体の厚み作りに役立ちます。 - ディップス(CKC)
体を固定して上下に動くCKC種目。大胸筋下部や上腕三頭筋への負荷が強く、胸の「下に厚みを出したい時」に非常に効果的です。 - スミスマシン インクラインプレス(OKC)
大胸筋上部に狙いを定めやすいOKC種目。軌道が固定されているため意識を胸に集中させやすく、胸上部の厚みづくりに欠かせません。 - ペックフライ、ケーブルクロスオーバー(OKC)
胸の収縮を感じられるOKC種目。可動域を広く使えるため、最後の仕上げとして胸の形を整える目的で行っています。
背中トレ
- チンニング(CKC)
体を引き上げるCKC種目。広背筋だけでなく、腕・肩・体幹も総動員するため「背中の広がり」と「強さ」を同時に鍛えられます。 - ラットプルダウン(OKC)
チンニングよりも軌道が安定し、背中への意識を向けやすいOKC種目。チンニングに比べてストレッチ感が強く、重量も扱えるため、チーティングを入れながら筋破壊をさせる目的で取り入れています。 - デッドリフト(CKC)
身体全体の連動が必要なため、背中の厚みや筋力を伸ばすのに最も効果的な種目の一つです。 - 各種ロウイング系種目(OKC)
シーテッドロウ、ワンハンドロウなど、背中の厚みと収縮感を作りやすいOKC種目。背中の厚み(立体感)を出す目的で行っています。
このように、同じ部位でもOKCとCKCを組み合わせることで、「ボリュームを出す」「弱点を補強する」「形を整える」など、目的に合わせたトレーニングが可能になります。
まとめ
OKCとCKCは、どちらが優れているかという話ではなく、それぞれに「得意な役割」があります。体の動き(運動連鎖)の仕組みを理解すると、その違いがより明確に見えてきます。
- OKCは、狙った部位にピンポイントで刺激を入れやすい
- CKCは、体全体を使って大きな力を発揮しやすい
- 弱点克服や形の調整にはOKCが向いている
- 筋量アップや基礎作りにはCKCが向いている
そして、私自身のトレーニングでも、どちらか一方に偏るのではなく、「土台づくりはCKC」「仕上げや弱点補強はOKC」というように、目的に合わせて両方を使い分けています。
もし今、トレーニングの伸び悩みを感じているなら、「どの種目がOKCで、どの種目がCKCなのか?」「自分は何のためにその種目を選んでいるのか?」という視点を一度見直してみてください。
動作の仕組みと目的が一致すると、トレーニングの質は大きく変わります。
ぜひ今回の内容をヒントに、あなた自身のトレーニングにもOKCとCKCの視点を取り入れてみてください。

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