こんにちは、腹筋がカニの裏の人(プロフィールはこちら)です。
筋トレを長年やっていると、次第に「強い部位」と「弱い部位」に差が出てくることは多くの人が経験していると思います。
そのような時、弱点部位のトレーニング回数を増やす、種目を変える、意識を集中する──そのような工夫をするトレーニーは多いことでしょう。
しかし、どんなに工夫をしたところで、思ったように弱点が改善されない・・・そう悩んでいる人は多いのではないでしょうか。
今回は、そんな悩みを抱えているトレーナーに向けて、改善のヒントとなる考え方と、それを元にした弱点改善のための新たなアプローチ方法を提案したいと思います。
弱点部位が生まれるひとつの理由
自分自身も、弱点部位の改善には同じように試行錯誤を重ねてきました。
しかしある時、ふとある疑問が湧いたのです。
「同じように鍛えているはずなのに、なぜ強い部位と弱い部位に分かれるのか?」
その答えを探るために、自分の身体と身体の動かし方のクセをあらためて観察してみると、トレーニング歴が長くなるにつれて、「強くなった部位が、別の部位の成長を阻害しているのではないか」という仮説に行きつきました。
この記事では、「強みが弱みを作ってしまう」というトレーニングのジレンマについて、自分自身の身体を例にしながら考察していきたいと思います。
この記事は「フォームが間違っている」「努力が足りない」といった内容のものではありません。ある程度トレーニングを続けてきた人ほど陥りやすい、身体の使われ方そのものの話です。
なぜ「弱点」ばかり見ていると迷子になるのか
弱点を改善しようとした場合と、どうしても我々の意識は「その部位」だけに限定しがちです。
どんな種目を、どんなフォームで、どんな意識で動かすか、そしてどれくらいの重量を扱い、どれだけのボリュームが必要なのか。
おそらく、ほとんどのトレーニーがそういったことを考えるでしょう。
もちろんそれらも大切なことですが、自分の経験上、トレーニング歴がある程度長くなってくると、その視点だけでは説明できない壁にぶつかることが増えてきます。
フォームも大きく崩れていない。重量も少しずつ伸びている。それでも、特定の部位だけ筋肉が思ったように発達しない。
このとき、問題は「弱点そのもの」ではなく、その動作の中で、誰が主役になっているかにあるのではないかと感じたのです。
身体は「一番得意な部位」に仕事を任せたがる
人の身体は、できるだけ効率よく、楽に力を出そうとします。
そのため、同じ動作でも、
- 過去に成功体験の多い部位
- 神経的に働きやすい部位
- すでに発達している部位
が、無意識のうちに主導権を握ります。
これは悪いことではありません。むしろ、重い重量を扱えたり、フォームが安定したりする理由でもあります。
ただし、「特定の部位を成長させたい局面」では、この仕組みが裏目に出ることがあります。
本来刺激を受けてほしい部位の仕事を、より強い部位が先回りして片づけてしまう。
結果として、
- 動作はできている
- パンプも多少ある
- でも発達は変わらない
という状態が生まれてしまいます。
「強い部位が、弱点を作る」という仮説
ここまで考えていく中で、自分の中で一つの仮説がはっきりしてきました。
弱点が伸びないのは、単純にそこが弱いからというだけではなく、別の部位が強すぎて仕事を奪っているからではないか。
言い換えると、強みが、意図せず弱みを作ってしまっているという状態です。
この仮説をもとに、自分の身体をあらためて観察してみると、過去に「なぜか伸びなかった部位」には、必ずと言っていいほど主導権を握っている強い部位が存在していました。
事例①腹直筋が強すぎて大胸筋上部が弱点に
私の一番の強みは、やはり「腹筋がカニの裏」と言われるほどに発達した腹直筋です。
この腹直筋の強みは、一見すると、ボディビル的には全く悪くない強みです。
むしろラインナップの際にはミッドセクションが強烈なインパクトを放ち、特に出場者が多いような大会ではピックアップ審査でかなり優位に立てるとさえ自負しています。
ただ、この腹筋の強さが、胸のトレーニングでは思わぬ形で影響していました。
ベンチプレスやチェストプレスマシン等の種目では、常に「体幹部の安定」を意識し、腹圧を高めていました。
その結果、動作は安定し、重量も扱える。
ですが、あとから写真や感覚を振り返ると、胸の上部だけがどうしても物足りない状態が続いていました。
よくよく身体の使い方を観察してみると、腹圧が強く入りすぎることで胸郭下部が張り出し、動作そのものが意図せずデクライン寄りになっていたことに気づきました。
フォームとしては間違っていないし、自分の中ではフラットな位置にプレスをしているつもりでも、実際には狙っていた角度とは微妙にズレていたのです。
最初は、腹圧が強く入りすぎることで胸郭下部が張り出し、動作そのものがデクライン寄りになっているのだと考えていました。
そして、あらためて自分の身体の状態を観察していく中で、もう一つの可能性にも気づきました。
それは、腹圧だけでなく腹筋自体が強すぎることで、胸椎下部が腹筋に引っ張られ、常に胸椎下部が伸展位に近い状態で固定されていたのではないか、という点です。
胸椎が「動ける伸展」ではなく、「一部のみが常に伸びきった状態」に近づいてしまうと、胸郭全体の可動性はむしろ失われていきます。
その結果、プレス動作では胸郭下部と連動しやすい下部大胸筋ばかりが使われ、上部大胸筋を動員しにくい状態になっていたのではないか。
今振り返ると、上部胸筋が弱かったというよりも、そもそもが動かしにくい身体の配置になっていた、そんな感覚に近いと感じています。
事例②ハムストリングが強くて外側広筋が弱点に
同じようなことは、脚のトレーニングでも起きていました。
自分はハムストリングや臀部が比較的発達しやすく、スクワットでも自然と股関節主導の動きになります。
しゃがめているし、重量も伸びる。感覚的にも「ちゃんとできている」感じはあります。
それでも、脚全体を見たとき、外側広筋の張りや立体感だけがなかなか出てきませんでした。
ここでも最初は、
- スクワットのフォームを見直す
- レッグプレスの足底の位置を変える
といった、よくある調整を試しました。
ただ、どれも決定打にはならなかった。
そこで改めて動作を観察してみると、スクワットの動作で多くの仕事をしているのがハムストリングだったことに気が付きました。
外側広筋が弱いのではなく、ハムが強すぎて、仕事を奪っていたという感覚です。
このときも、「効かせ方が下手だから」ではなく、「役割分担がズレているだけなんだな」と捉えることで、脚の見方が変わりました。
一般的にもよく見られる「強い部位が弱点を作る例」
こうした現象は、決して特殊なケースではありません。
トレーニングを続けている人ほど、無意識のうちに「得意な部位・動き」に頼るようになり、結果として別の部位の成長を止めてしまうことがあります。
ここでは、一般的にもよく見られる例をいくつか挙げてみます。
例①腕が強すぎて、背中に入らない
ラットプルダウンやローイングで、背中を鍛えているつもりなのに、終わると腕ばかりがパンパンになる。
この場合、広背筋が弱いというより、上腕二頭筋や前腕が主導権を握っているケースが多く見られます。
引く動作そのものは成立しているため、重量もそれなりに扱える。
ですが、実際には背中は動作の主役にはなれていない。
これも、強い部位が仕事を先回りしてしまっている典型例です。
例②三角筋前部が強く、胸に刺激が乗らない
ベンチプレスやダンベルプレスで、肩の前ばかりが疲れてしまうケースもよくあります。
この場合、三角筋前部が強すぎる、あるいは使いやすすぎることで、大胸筋の仕事を肩が引き受けてしまっています。
重量は伸びているのに、胸の厚みや形が変わらない。
これも「胸が弱い」のではなく、肩が主役のまま動作が完結している状態だと言えます。
例③腰背部が強く、脚や臀部に入らないデッドリフト
デッドリフトで高重量を扱えているのに、脚やお尻の発達につながらない。
この場合、脊柱起立筋が主導権を握りすぎていることがあります。
腰が強い人ほど、下半身を使わずとも引き切れてしまうため、ハムや臀部が「参加しなくても成立する」動作になってしまう。
結果として、背中は強くなるが、下半身の見た目は変わらない、という現象が起きます。共通しているのは「弱いから使えない」のではない
これらの例に共通しているのは、
- 弱い部位がサボっているわけではない
- フォームが大きく崩れているわけでもない
- 強い部位が自然と仕事を奪ってしまっている
という点です。
身体は常に、一番得意な方法で課題を解決しようとする。
その結果、鍛えたい部位とは別の部位が成長し続け、バランスだけが崩れていく。
「強い部位が、弱点を作る」という現象は、こうした積み重ねの中で起きていると考えています。
このような場合に大切な視点とは?
やり方の前に、視点を整理する
ここまで読んで、「ではどうすればいいのか?」「どんな種目をやればいいのか?」と思った人も多いかもしれません。
ただ、個人的には、やり方の前に、一度立ち止まって考え方を整理することがとても大切だと感じています。
身体は「一番得意な解決策」を選ぶ
身体は、こちらが思っている以上に合理的です。
課題が与えられたとき、できるだけ楽で、失敗の少ない方法を選びます。
それが、
- 一番強い部位
- 一番慣れている動作
- 一番成功体験の多いパターン
です。
これは、サボりでも怠慢でもありません。
「うまくやろうとした結果」です。
問題は「何をしているか」より「誰がやっているか」
トレーニングでは、どんな種目を選ぶか、どんなフォームで行うか、に意識が向きがちです。
ですが、今回のテーマで一番大事なのは、
その動作を、誰が主役として行っているのか
という視点です。
同じスクワットでも、
- 大腿四頭筋が主役なのか
- ハムストリングが主役なのか
- それとも別の部位なのか
で、身体への影響は大きく変わります。
動作ができていることと、狙った部位が主役になっていることは、必ずしも一致しません。
「できている」は、必ずしも「成長している」ではない
ここが、一番勘違いされやすいポイントです。
重量が伸びている。回数もこなせている。動作も安定している。
それでも、
主役が違えば、育つ部位も違う。
むしろトレーニング歴が長くなるほど、このズレは見えにくくなります。
なぜなら、「できてしまう」からです。
弱点を「責める」のをやめる
伸びない部位があると、どうしてもそこを責めたくなります。
ですが、今回の話を踏まえると、その部位はただ、
主役を任せてもらえなかっただけ
なのかもしれません。
弱いから使えないのではなく、使われてこなかったから、結果として弱く見えている。
そう捉え直すだけで、トレーニングに対する見方はかなり変わります。
具体策を考えてみる
ここまでの話をまとめると、必要なのは特別なテクニックではありません。
強い部位が勝手に主導権を握ってしまうなら、そもそも主役を選ばせない環境を作ること。
この考え方に立つと、解決策はいくつかの方向に整理できます。
弱点部位に負荷が「強制的に」乗るマシンを使う
一つ目は、狙った部位が仕事をしないと成立しない設計のマシンを使うことです。
ハックスクワットは、その代表的な例です。
上体が固定され、股関節での逃げが効きにくい。
その結果、大腿四頭筋、特に外側広筋が主役にならざるを得ない。
これは、意識の問題ではなく、構造による強制です。
同じ脚の種目でも、フリーウェイトでは得意な動きで処理できてしまう人ほど、こうしたマシンは大きな意味を持ちます。
フリーウェイト中心から、マシン中心に切り替える
次に考えられるのが、一定期間、マシン中心の構成に切り替えるという選択です。
フリーウェイトは自由度が高い分、身体が「一番楽な解決策」を選びやすい。
それは裏を返せば、主役をズラしたままでも成立してしまうということでもあります。
一方、マシンは
- 軌道が決まっている
- 可動域が制御される
- 力の出しどころが限定される
ため、主役がズレにくい。
「フリーウエイトは上級者向け」というイメージはありますが、主役を入れ替えたい局面では、マシンの方が上級者向けになることもありえると思います。
コンパウンド種目からアイソレート種目に切り替える
そしてもう一つが、コンパウンド種目からアイソレート種目への一時的な切り替えです。
これは、弱点部位に
「この仕事だけをやってほしい」
と明確に役割を渡す方法です。
アイソレート種目は、逃げ道が少なく、主役が曖昧になりにくい。
重量や派手さは落ちますが、主役を主役として扱う経験を積ませるには有効な手段だと思います。
強い部位はコンパウンド種目のみに限定する
もう一つの考え方として、 強い部位に対しては、
コンパウンド種目のみに限定し、 アイソレート種目をあえて行わない
という方法もあります。
強い部位は、 コンパウンド種目の中で関与する割合が大きくなりやすく十分に刺激を受けます。
その状態でさらにアイソレート種目を加えると、 主役の時間を過剰に与えてしまうことになります。
そのため、あえて追加の出番を与えず、 コンパウンドの中での関与だけにとどめる。
一方で、弱点部位には、 アイソレート種目やマシンを使って、 主役としての時間をしっかり確保する。
このように、 部位ごとに役割と出番を分けることで、 発達のバランスを整えていくことができます。
これらに共通している考え方
ここで挙げた方法の根底にある考え方は共通しています。
「意識で頑張らせる」のではなく、「構造で主役を決める」
ということです。
強い部位が主導権を握るのは、身体が合理的に動いている証拠でもあります。
だからこそ、その合理性に逆らうのではなく、合理性そのものを利用する。
それが、今回紹介した解決策の共通点です。
どれを選ぶべきか
どれか一つが正解、というわけではありません。
重要なのは、
- 今、自分の身体は誰が主役になっているのか
- その主役は、今の目標に合っているのか
を把握した上で、主役を強制できる手段を選ぶことです。
アイソレートにするのか、マシンを使うのか、構成そのものを変えるのか。
どの選択肢も、「強い部位が弱点を作る」状態から抜け出すための、正当な戦略だと思っています。
まとめ
筋トレで伸び悩んだとき、私たちはつい「弱い部位」に原因を求めてしまいます。
もっと鍛えなければならない。もっと意識しなければならない。
ですが、この記事で見てきたように、伸びない理由は必ずしもその部位の弱さにあるとは限りません。
むしろ多くの場合、
すでに強くなった部位が、無意識のうちに動作の主導権を握ってしまっている
それだけのことかもしれません。
身体は常に、一番得意で、一番失敗の少ない方法を選びます。
それは合理的で、間違いではありません。
ただし、「今、どの部位を成長させたいのか」という目的とズレたまま続けてしまうと、
強みが、意図せず弱点を作ってしまう
という状態が起こります。
今回紹介した解決策は、特別なテクニックではありません。
- 主役を強制できるマシンを使う
- フリーウェイトからマシン中心に切り替える
- アイソレート種目で役割をはっきりさせる
これらはすべて、
「意識で頑張らせる」のではなく、「構造で主役を決める」
という、同じ考え方に基づいています。
もし今、
- 重量は伸びているのに見た目が変わらない
- 同じ部位ばかりが疲れる
- 苦手な種目を無意識に避けている
そんな感覚があるなら、
それは努力不足ではなく、役割分担がズレているサインかもしれません。
一度、「どの部位が主役になっているのか」を問い直してみる。
それだけで、トレーニングの見え方は大きく変わります。
弱点を責める前に、主役を見直す。
この記事が、自分の身体をあらためて観察するきっかけになれば嬉しいです。

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